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ガチャとプリペイドカードの利用体験教材

■教材開発の概要・教材の機能
【概要と教材の機能】
新谷・上野・長谷川は、「特別な配慮を要する子どもに対する社会の情報化に対応した消費者教育教材の開発と検証」の研究の一部として、特別な配慮を要する生徒が興味を持って、短時間で完結できる、様々な授業の目的や生徒の実態に対応できるような柔軟性のあることを観点とした教材を開発した。
開発した教材「たくさん集めて!水族館(https;//aqua.oct-kun.net)」は、ガチャ(電子くじ)を用いてレア度別の提供割合が設定された魚等を水槽の中に収集し泳がせて遊ぶゲームである。3回の無料分に加えて、「チケットカード」や「電話料金合算払い」などの様々な支払方法を用いて1回100円相当のガチャを引く疑似体験ができる。なお、使用する子どもの実態や、授業のねらいに対応させられるように、次の図のようにカスタマイズできる機能を実装した。

■情報モラルの支店
【情報モラル教育の視点から見たソーシャルゲームにおける課金に関する教育の課題と教材開発の必要性】
文部科学省(2007)が策定した情報モラル指導モデルカリキュラム表では、ネットオークションやネットショッピングに関する内容は、高校レベルの「3.安全への知恵 d5-2 トラブルに遭遇したとき、さまざまな方法で解決できる知識と技術を持つ」に設定されている。また、情報活用能力の体系表例(2019)においても、「A知識及び技能」のステップ5に関連する内容が設定されている。ソーシャルゲームにおける課金に関する問題に対応するには、消費者庁(2013)が策定した消費者教育体系イメージマップの「トラブル対応能力」の中学生期、高校生期に設定されている内容のレベルが求められる。
しかし、現在、ソーシャルゲームは小学生から利用されており、国民生活センターも「未成年の子どもがスマホゲームで高額課金してしまった![2021年10月8日:公表]」などを取り上げ、注意喚起している状況になっている。
このことから、情報教育、消費者教育の両方において、中学生、高校生レベルと設定されている内容を、小学生も学べる教材と指導法の開発が必要とされているといえる。さらに、特別な配慮を要する子どもに対する教材と指導法は、すべての子どもにとって有益なバリアフリーな教材と指導法であるといえる。

■家庭科の支店
【家庭科とソーシャルゲームによる課金】
ネットショッピングをめぐる消費者トラブルは低年齢化している。特に近年は、オンラインゲームでの課金トラブルは小学生に多い相談事例といえる(国民生活センター2019など)。
現行学習指導要領の解説では、「インターネットを介した通信販売」について、小学校家庭科、中学校技術・家庭科家庭分野、高校家庭科の科目「家庭総合」及び「家庭基礎」のすべてで言及されている。一方、小学校家庭科の授業時数は、前学習指導要領と同じで、5学年で60時間、6学年で55時間である。この限られた時間の中で、ネットショッピングやオンラインゲームでの課金トラブルに関することを扱える時間はさらに限られる。
そこで、ICTを活用し、容易に入手し扱える教材として、「たくさんあつめて!水族館」が活用できる。前述のように、オンライン上のガチャで当たった魚を水槽に集めるゲームで、無料ゲーム後の課金では紙のプリペイドカード(チケットカード)の購入体験もできる。以下、活用例である。
<活用例A>
【授業のめあて】ほしい景品が出るまでに高額な課金が必要になることのリスクに気づく。
【授業の流れ】
・班ごとに、一番レアな「たこさんウィンナ」が出ることを目指し、プリペイドカードを買い、ガチャを回し続ける。
・「たこさんウィンナ」が出るまで、または時間が来たら、そこまでにかかったガチャの回数と課金額を発表する。
・気づいたことをクラスで共有する。
<活用例B>
【授業のめあて】ゲームの中には継続を促す仕組みがあり、そこにはお金を使いすぎてしまう危険性もあることを理解した上で、どこまでゲームを楽しむかを判断する。
【授業の流れ】
・班で、ガチャを無料分3回引き、クラスでの「写真コンテスト」 のために、「カメラ」から画像を保存して「ペイント」ソフトで加工する。
・疑似おこづかい500円をもらう。プリペイドカードを購入しガチャをもっと引くか、500円は別のことに使うかを班で話し合う。
・作品とかかった金額、気づいたことをクラスで共有する。
■特別支援の支店
【特別支援学校(知的障害高等部)における実践】
高等部3年男子7名を対象とした特徴的な事例は次のようなものであった。
一人暮らしをする際のお金のやりくりを考える単元内において、ガチャ疑似体験ゲームを10分間利用した。結果、有料チケットを購入しない生徒が1名いた。授業後の分かったことの記述には、全ての生徒が、「お金」、「購入」、「金額」等の課金に関する言葉を用いていた。2等が当たった生徒は、4,000円課金していた。
 これらのことから、ガチャは、商品取引と違い、1つのアイテムの価値が運要素により異なり、無料であったり、高額になったりすることがあることを実体験しながら学ばせることができ、運要素により異なる価値があるアイテム等の金銭感覚をつかませるためには、疑似体験ゲームは有効であったと考えられた。(金沢星稜大学 准教授 新谷 洋介・金城学院大学 教授 上野 顕子・教授 長谷川 元)

≪参考文献等≫
新谷・上野・長谷川(2020),日本消費者教育学会第40回全国大会実践交流会「ガチャとプリペイドカードの利用体験教材」
JSPS科研費(課題番号JP17K00779)の助成を受けて本実践は行われた。


(日本消費者教育学会40周年記念事業「消費者教育実践事例集」より)