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キャッシュレス社会の現状や課題を考えさせる教材の作成

■教材を作成した背景
【背 景】
 以前からクレジットカードやプリペイドカードは使われているが、近年はスマホを全世代で保有するようになり、コロナ禍におけるオンラインショッピングの利用拡大も相まって、社会全体で急速にキャッシュレス化が進んでいる。
 2022年度から学年進行で実施される高等学校家庭科(家庭総合)の学習指導要領には、「キャッシュレス社会が家計に与える利便性と問題点を扱うこと」と記載されている。成年年齢引下げを間近に控えた当事者である高校生を対象として、実際の授業で活用できる金融リテラシー教育教材を作成した。

【企画および制作】
 2012年からおもに大学での金融リテラシ―教育普及のためのテキスト作りや、実践・普及のため各地でフォーラムの開催などをしてきた金融リテラシ―推進委員会が企画、ビザ・ワールドワイド・ジャパンと(公財)消費者教育支援センターの協力の下で制作された。

■教材の特徴とねらい
【特 徴】
1_ 各学校の実情に合わせて追加・修正ができるパワーポイント教材
2_ 解説・授業活用例・ワークシートが掲載されている教師用解説書
3_ 授業実践を13分にまとめた動画

 これらは全て、「実用的なマネースキル」のHP上に掲載され、誰でもダウンロードして使用することができるものである。

掲載先:https://www.practicalmoneyskills.jp/for-educators/

【ねらい】
・キャッシュレス社会の現状や仕組みを知り、家計に与える利便性や問題点を理解する。
・自身の使い方を考察し、生活の中で適切な意思決定ができる意欲と態度を育成する。

■教材の内容(50分の授業展開例)
【導入:キャッシュレスについて興味・関心を高める】
 キャッシュレス決済の場面の写真を見せ、「新型コロナウイルス感染拡大の影響でキャッシュレス決済の利用は増えていると思うか」と問いかけ、その理由を含めて考えさせた。また、「どんな時にキャッシュレス決済を利用しているのか」と尋ね、使用には個人差・地域差があるが、日常的に使ったり、見かけたことがあることに気付かせ、キャッシュレスについての興味・関心を高めていった。
 「日本では平均して1人何枚の支払いができるカードを持っている?」などのクイズを通して、日本及び世界の現状を把握させた。現金が使えない店舗が実在するなど、キャッシュレス化が世界で急速に進んでいる現状をコンパクトに理解できる内容とした。

【展開2:キャッシュレスの仕組みを知る】
 キャッシュレスの仕組みを2つの視点(支払いのタイミング、決済手段)から整理した。日本はキャッシュレスの決済手段が乱立してわかりにくいため、決済手段と説明文を線で結ばせたり、クイズを出題するなどして知識の定着を図った。

【展開3:キャッシュレス決済の特徴を考える】
 購入する商品や購入の場面に応じ、自分自身で意思決定し選択・活用できる力を育むのが消費者教育である。これまで学習してきたことを踏まえて、現金決済とキャッシュレス決済の特徴をグループで話し合わせた。

【まとめ:キャッシュレス時代の生き方を考える】
 キャッシュレスは便利なことも多いが、セキュリティのリスクや安全性についても考える必要がある。批判的思考力を駆使し、キャッシュレスを安全かつ上手に利用するための3か条を考えさせることにした。人に貸さない、使った分の金額をこまめにチェックする、自分に合わせた支払い方法を選ぶ、などの意見が出てきた。

■今後の展開
 本実践では、キャッシュレス時代の決済ツールとして、その利便性や安全性を検討した。さらには、決済に伴う個人情報の流出にも留意すべきことを加えておきたい。私たちは決済を通じ、購入した商品、金額、購入時期・場所のみならず、氏名、年齢、生年月日、アドレス、電話番号などを、何らの対価なしに販売者やプラットフォーマーに提供している。利便性に身を委ねるばかりではなく、リスク管理の重要性にも理解が及ぶ自立した消費者市民を育てたい。(埼玉県立蓮田松韻高等学校 教諭 池垣陽子/横浜国立大学 名誉教授 西村隆男)

(日本消費者教育学会40周年記念事業「消費者教育実践事例集」より)