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SDGs達成のための未来を変えるエシカル消費-高等学校におけるリーフレットを活用した実践-

■教材の概要と実践の目的
(公財)消費者教育支援センターでは、2019年にリーフレット「SDGs達成のための未来を変えるエシカル消費」(以下リーフレット)を発行した。これは、SDGsの目標達成に向けて、エシカル消費を「自分事」として考え、広い視点で行動につなげる中学生以上を対象にした教材である。イラストや写真で構成することで視覚的に学ぶことができる工夫をしている。学校現場におけるリーフレットの活用方法と、サポートの必要性及び今後の教材のあり方などを検証するため2020年9月高等学校において授業実践を行った。

■授業実践内容
 卒業後の進路が進学と就職半々という高等学校の1年生の家庭総合において「食品ロスを通じて考える未来を変えるエシカル消費」というテーマで2クラスで実施した。その際、本リーフレットの他にワークシートを作成した。授業のねらいは「日頃の生活と世界の問題とのかかわりに気づき持続可能な社会の達成に向けて自分が何をすべきか考えることができる」とし、リーフレットの内容に沿って、導入:エシカル消費がめざす未来・エシカル度チェック、展開1:地球の現状~食品ロス、展開2:エシカル消費、まとめ:未来を変えるエシカル消費とSDGsの流れで実施した。

【授業実践】
(1)導入:エシカル消費が目指す未来 エシカル度チェック
最初に、 エシカル消費を知っているか、どこかで聞いたことがあるか、どんなイメージかを聞いたところ、8割の生徒が知らないと回答した。一方、貧困をなくす、食品ロスをなくす活動、コンビニでの「エシカルシール」などと回答した生徒もいた。そこで各自がエシカル度チェックを行い、その結果をペンギンが乗っている氷を塗りつぶすこと【図1】で振り返った。「塗ったところは氷が解けたところです。みんなのペンギンはまだ氷の上に乗っていますか。その結果世界では何が起きているでしょう」と声かけして、次の展開につなげた。生徒のエシカル度チェックの結果は【図2】の通り。

(2)展開1:地球の現状~食品ロス~
私たちの消費生活によって起きている地球上の問題として、地球温暖化、森林伐採、貧困、児童労働などの写真を提示して、持続可能でない現状を確認した。続いて家庭や店舗の食品ロスの写真を見て、賞味期限が違う牛乳のどちらを選ぶかをロールプレイングで体験することで、店舗の食品ロスの原因の一つが消費者の鮮度志向によるものであることを理解した。
 その後、リーフレットの「Q.食品ロスを出していませんか?」に掲載のイラスト【図3】を参考に、食品ロスとそれにかかわりがあると考えられる地球上の問題とを線でつなぐワークを行った。全ての問題が何らかの形で食品ロスとかかわる。そのかかわりが見えにくい児童労働を食品ロスと線でつないでいる生徒に、なぜそう思うかたずねたところ「自分たちがいつも安いものを買って捨てているからこの子の家はいつまでも貧しくて働くしかないから」と自分の消費とのかかわりに気づくことができていた。

(3)展開2:エシカル消費 「もったいない」・「買い物」・「社会参画」
 先ほどのワークから、食品ロスを削減することは地球上の問題の解決につながることを踏まえ、リーフレットに掲載の「もったいない」「買い物」「社会参画」を参考に各自何ができるかを具体的に考え、全体で共有した【図4】。「買い物」では、計画的な買い物のほか、あえて賞味期限の近いものを買ってお店の負担を減らすなど、他者の立場を配慮した意見もあった。「社会参画」としては、家族で話し合う、ポスターなどを使って地域に広めるなど、難しいながらも自ら考えようとしている様子が見られた。

(4)まとめ:未来を変えるエシカル消費とSDGs
 このようなエシカル消費がSDGsの達成につながり、みんなの行動がこれからの未来をつくることを伝え、学習のまとめとした。
 授業後の感想では、知識としてエシカル消費を知ったことに加え、食品ロスなど自らの消費生活が地球温暖化や貧困とかかわることに気づいたというコメントもあった。さらに、バイト先の廃棄商品はみたくない、命をむだにしないなど自らの行動につながる感想も多くみられた。また、自分が良く考えられたことに驚いたという感想もあり、生徒自身の充実感にもつながった。

■成果と今後に向けて
 本実践において、リーフレットを活用した授業が、人、社会、環境を考えた買い物から消費者市民としての行動まで、広い視野でエシカル消費を考えるきっかけになるということがわかった。また今回は食というテーマで実施したが、衣類や住まいなどをテーマにした場合でも、同様の流れで活用が可能であると考えられる。一方、学校での限られた授業数の中で主体的で深い学びにするためには、ワークシートや写真・イラストなどの画像データがあるとリーフレットをより効果的に活用できる。今後の当センターにおける教材開発においては、このような教員をサポートするツールについても検討していきたい。また、同じ学年で本授業を実施していないクラスでは、社会科教員がリーフレットと独自ワークシートで授業を実施した。その他公募で活用事例を募集したりもしている。このようなリーフレットの活用事例等を、当センターの機関誌「消費者教育研究」やWebサイトを通じて今後も発信していきたい。(公益財団法人 消費者教育支援センター 主任研究員 小林和子)

(日本消費者教育学会40周年記念事業「消費者教育実践事例集」より)